大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)773号 判決
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〔判決理由〕3、A歯科分 金三八、六七〇円
前同甲第三八号証によれば、原告は歯の治療費等として、A歯科医院に金一九六、二二〇円の支払いをなし、その内に補綴代が金一七三、〇〇〇円を要した事実が認められる。ところで<証拠>を総合すれば、原告は本件事故により上前歯の中切歯二本、右側切歯一本を歯槽骨骨折し、左側切歯の歯牙を破折したため、国立大阪病院歯科にて欠損補綴等の治療を受け架工義歯を装着したのであるが、その後間もなく下歯の左第一小臼歯と第二小臼歯が腐食したことと、前記架工義歯の装着部分の粘膜損傷と歯肉肥厚などから、A歯科医院で再治療を受けたこと、その内容は右の架工義歯を撤去のうえ、病変部分を治療し、改めて義歯を補綴し、左犬歯にポーセレンジャケットクラウンを、右犬歯および右第一大臼歯に前装白金加金全部鋳造冠を、歯牙欠如となつていた左右中切歯、側切歯、右第一、第二小臼歯(この二本は本件事故前に架工義歯が装着されていた)に金属床陶歯を、それぞれ使用して装着したこと、なお歯頸部適合を良好にさせるため全部鋳造冠を作製したものであること、前記国立大阪病院における架工義歯装着の治療費用は、架工義歯に銀合金高融製を使用し、その支台にサンプラチナ製を使用して総額が金一〇、二六三円であり、これが厚生省の定める歯科診療報酬点数表所定の金額であること、A歯科医院での治療についても、右点数表所定の方法(白金加金等を使用せずまたレジン床義歯を使用する)で治療すれば、その金額は一五、四五〇円程度であることが認められる。さて、一般に、患者がその希望する所で、希望する方法により診療を受けることは当該本人の自由であり、このことは交通事故による被害者の場合も例外ではない。従つて、歯の治療の場合、患者が自己の都合や好みによつて歯科医師を選び、その好む治療方法と歯科材料によつて治療を受けること(例えば歯欠損補綴の場合、有床義歯にするか架工義歯にするか、歯冠に白金加金を使用するか合金を使用するか)は当然である。しかし、これはあくまで、医師と治療に関し診療報酬契約を締結した患者ないし第三者がその費用を自己負担する場合の原則であり、その費用が契約当事者以外の第三者ないしは保険金によつて支払われる場合には、おのずから社会的に許容しうる相当な方法と材料による金額に限定され、なお患者自身において右相当額を超える方法と材料により治療を受けたいならば、その差額は、当該本人の負担となるものと解するを相当とする。現に、昭和四二年一一月一七日保険発一二二号厚生省保険局長通知「歯科領域における差額徴収の扱いについて」によれば、患者又は第三者が金合金、白金加金、金属床及びポーセレンを使用する歯冠修復及び欠損補綴を希望した場合にはこれを使用しても差し支えないが、この場合、その料金(慣行料金)から歯科点数表に定める歯冠修復及び欠損補綴の最も近似する行為の点数を金額に換算し控除した額を患者又は第三者から徴収する、との取扱いがなされている。交通事故による損害賠償の場合の治療費も、本来は、医者と患者との契約に基いて生じたものが、患者と加害者との間では、損害金として、不法行為による権利義務関係の存否、範囲に関連するものであるから、従つて、単に患者の特殊な要求や医師の都合によつて左右されることは許されず、受傷の程度、内容から通常必要とされる相当額の範囲(公平の観念に照して相当性の認められる範囲)内に限られ、これを超える部分については当該患者の自己負担とならざるを得ない。本件についてこれをみるに、原告が国立大阪病院で欠損補綴の治療を受けたのち、その直後にA歯科医院で治療を受けたことや、同病院での治療に前記の方法と材料を使用した点について、原告に何の責められるべき点はないとしても、同病院での治療費については、補綴に白金加金、金属床、ポーセレンを使用したため、補綴代として金一七三、〇〇〇円を要したものであり、特別に高価な右歯科材料を使用することが治療上必要であつたと認めるに足りない本件においては、もつぱら、原告の審美的な贅沢な好みから高額な費用を出捐したものといわざるを得ず、かかる費用の全額を事故による損害金と認めることは困難であり、これを加害者側に負担させることは公平の観念に照して認容しがたい。
しかしてこのような場合、厚生省告示の歯科診療報酬点数表が参考になり、前記A歯科医院における治療に最も近似する同点数表所定の金額と認められる金一五、四五〇円をもつて、加害者である被告らに賠償を求めうる補綴治療費であるものと認めるのが相当である。
(吉崎直弥)